わかっているから尚更、強く願う。 打ち砕かれてはまた手を合わせ、祈って。 それで叶うのなら私は死ぬまでそうしているのに。 『恋愛アンチテーゼ』 「・・・・・・なんで海なんだ」 「不意に、行きたいなと思ったので」 「それでも寒いだろうが」 肌寒い秋の海。 「うーっ、怒るんなら来なきゃ良かったじゃないですか」 「行かないって言ったら無理やり連れて来たんだろ」 「そんな酷いことしません」 「うそ」 「本当です、嫌なら、今から帰ってもいいですよ?」 「・・・・・・帰る頃にはもう暗くなってるだろ」 「それで?」 「・・・・・・心配なので送らせてください」 「はい、お願いします」 「でももうちょっとだけいましょうね」 指を絡めて波打ち際を歩いた。 潮の匂いがして、足跡が穏やかな波に攫われてって、 それからちょっと切なくなった。 自分たちが攫われてしまわないように、 指の間を強く握って、 「ちょっと、寒いです」 「だからさっき言っただろう」 「そうですね」 「・・・・・・なぁ、やっぱり」 「まだ帰りません」 「・・・そう」 最近は心が重ならない。 いつになっても照準を合わせようと追いかけっこ。 定まらない不安定なものに、ちょっと怖くなってみたり。 怖くなるっていうことは、 「ずっと一緒にいれたらいいですね」 「・・・・・・難しいな」 そう、難しい。 それはあなたが思ってるより遥かに難しい。 けど思った。 「・・・・・・雲を止めることより、簡単です」 「・・・・・・雲?」 「海を干乾びさすことより、地球の回転を止めることより、 簡単です」 「ね」 「思いだけなら誰にも負けない自信あるんですけど」 「・・・・・・」 限りなく同一に近づいて、けどそれ以上には。 「思いだけじゃ、だめなんでしょうね」 そしてそれはきっと他に何があってもだめなんだろう。 「どうして」 きっと私が愚かだから。 近い未来にあなたを必ず裏切るから。 臆病な心は耐え切れなくなって、ついには嘘をついた。 「けどずっとあなたの味方ですから」 「手、離さないでくださいね、」 そう言いながら最初に離すのは、多分私の方なんだ。 今までもこれからも、死んでもきっとわからないままだ。 私たちの結末はきっとそーゆー風に出来てる。 このまま二人一緒に攫われちゃえばいいのに、と思いながら、 また指の間を強く握った。 波は変わらず穏やかなままだった。